今回は音響監督、声優養成所講師、名古屋芸術大学准教授を務めていらっしゃる、ハマノカズゾウ氏に現役の音響監督ならではの目線、プロの現場のお話を伺いました。

前編・後編に分かれていますので、是非前編もご覧ください。
最後には番外編の質問もあります。

ハマノカズゾウ プロフィール

アニメの音響監督、舞台の作・演出家、声優養成所講師、名古屋芸術大学准教授

代表作
アニメーション(音響監督)
TV東京系「家庭教師ヒットマンREBORN!」
NHK Eテレ「クッキングアイドル!アイ!マイ!まいん!」
TV東京系「capeta-カペタ-」
TV東京系「軒轅剣 蒼き曜」 など

ドラマCD(音響監督)
「夏目友人帳」
「ヴァンパイア騎士」
「会長はメイド様」 など

Twitter:https://twitter.com/kazuzo_h

 

思い出の作品、大きな存在との出会い

インタビュアー:
音響監督の目線として『このシーンの演出やられたな』という作品はありますか?

ハマノカズゾウ氏:
演出って作品の全体の流れとか、全体を見ることが多いので、あんまりパーツで『このシーンが』っていうのってそこまで無いんですね。やっぱあの作品が良かったあの作品の演出が面白かったっていうのもありますけど、シーンでというのになるとあまり浮かばないですね。

作品で言うのであれば、僕は一番思い出に残っているというか、一番「すごいなー」って思ったのは『うる星やつら』っていう30年ぐらい前の作品なんですけど。
うる星やつらの効果音に依田(よだ)さんっていう方が担当されていたんですよ。
SE、効果音では有名で凄い方なんですけど、依田さんのSEがとにかく神がかっていたんですよ。
僕は別に音響監督をやろうと思っていなかったし、三ツ矢雄二さんに会うまでずっと舞台をやっていたので、音の方の仕事をやるつもりはなかったけど、うる星やつらの効果音はずっと覚えていたんですよ。

あの時代に「この音を編み出したんだ!?」、「SEさんこの音付けたのスゲーな」っていうのが沢山あるんです。
うる星やつらってラムちゃんっていう女の子の主人公がいて、彼女が飛ぶときの『キィィーン』って音があるんですよ。あの音って多分、初めて依田さんが付けた音だと思うんです。それまであの音を聞いたことがなかった。

あとテンちゃんって言う小鬼のキャラクターがいるんですけど、あの子が飛ぶと『ピョンピョンピョンピョン』って音が入っていたんです。うる星やつら以前の作品で、あんな音が入っているのを聞いたことがないなって。

ギャグアニメだったのであとは『爆発音』。
今でこそ『チュドーン』ってよく言いますけど、その効果音を使ったのもうる星やつらが初めてだと思います。それぐらい「なにこの面白い音!」というのを子供心に覚えていました。

自分がこの仕事を始めた時に色んなSEさん達と仕事をして、凄いなーって思うけどやっぱり自分の中でうる星やつらをやっていた依田さんがとてつもなく僕の中で印象に残っていたので、すごい人だなと思っていたんですけど、その依田さんと『capeta(※)』という作品でご一緒できたんです。

capeta(カペタ)
モータースポーツを題材にした作品。TVアニメは2005年10月~2006年9月放映

うる星やつらのSEは凄いなって覚えていたんですけど、実はSEさんの名前を見ていなかったので依田さんだと知らなくて。

ご一緒した時に「すっげー上手いな」「この人天才だな」って思いながら仕事していて、「こんな音をお願いします」っていうとリクエスト通りの音をつけてくれるし、「どうしたら良いですかね?」って相談すると、「こんな音はどうだい?」って良いものを付けてくれる。
2人で飲みに行った時に「依田さんって今までどういう作品をやっていたんですか?」って聞いたら、「うる星やつらだよ」って。
「あぁ、この人か!」、「俺もしかして凄い人と一緒に仕事してる!?」って。
尊敬しているけど名前では見てないので、それが自分の尊敬する人が自分の現場に居たっていうのでとても衝撃を受けて、とても楽しい現場だったんですけど、ただその後すぐ依田さんが亡くなって遺作になってしまいました。

「SE」って凄く職人なんですけど、いまはコンピューターの時代になってしまって、コンピューター技術者の方が早いし、色んな音を持っているので、依田さんが苦しい立場になっていった頃だったんですよ。
SEとして凄い腕を持っているし、凄い方なのにどんどん仕事が減っているっていう時期で、
最後の仕事として依田さんとご一緒出来て、それが一番の宝物ですね。

依田さんにまた一緒に仕事をしたいですって伝えたら、ご病気だったので「また一緒にって言ってくれるのは嬉しいけど、僕はもう無理だと思うよ」って言われたんです。
実はその時期って僕が音響監督として一番悩んでいた時で、舞台ばっかりやってきて、三ツ矢さんに誘われて音響監督を始めたけど、「俺ってこれやっていていいのかな」とか、「俺ってセンスないんじゃない」とか色んなこと考えて頭ぐちゃぐちゃで苦しんでいる頃だったんです。
capetaが終わって依田さんに会った時にまたご一緒できたら嬉しいですって言った時に「俺は多分もう無理だよ」って言われたら「そんなこと言わないでください。それより僕の方がまぁ仕事が二度と来ないかもしれませんし」って笑っていった時に、依田さんが僕の目をちゃんと見て「大丈夫。ハマノくんは天才だから」って言ってくれたんです。
その一言だけで今も頑張れているんです。

もう無理とか俺ダメだなって思っても、依田さんから最後に貰った言葉・自信だけでこの20年頑張って来ちゃったって感じですね。

インタビュアー:
凄い大きな存在ですね。

ハマノカズゾウ氏:
なので、一番過去「凄い!」と思ったのは依田さですね。亡くなった時は相当ショックでした。

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担当した作品、思い入れの強い作品について

インタビュアー:
沢山あると思うんですが、今度はご自身で担当された作品で特に思い入れが強い作品はありますか?

ハマノカズゾウ氏:
これね!何か言うと一緒にやったスタッフからコレじゃないの?って言われちゃうと思うんで難しいんですけど。
正直、僕の中で代表作として一番苦しんだ作品、一番思い入れが強いのって言われると『家庭教師ヒットマンREBORN!(※)』という作品があって、これが一番でなきゃいけないんですけ、根強いファンが多くてすごく人気作品なんで、それと言うべきなんですけど、あえてそれじゃなく『軒轅剣 蒼き曜(※)』という2年前にやった作品です。

※家庭教師ヒットマンREBORN!
週刊少年ジャンプに掲載されていた、天野明による作品。
TVアニメは2006年10月~2010年9月放映。
※軒轅剣 蒼き曜(けんえんけん あおきかがやき)
日本及び中華圏で放送された作品。
TVアニメは2018年10月~12月放映。

なんで思い入れが強いかと言うと、僕が音響監督として新人さんとやることが多いんですよ。演技の先生もしているので、新人さんで上手くない人とか、現場に慣れてない人に対して委縮せずに芝居を出来るように環境を作るのが上手いと思われているんで、プロデューサー達から頼まれるのって若い子たちが多い新人の現場が多いんです。
それが軒轅剣に関しては、名前ある人しか居ないっていう作品で、錚々たる顔ぶれなんですよ。全キャスティングが名前ある人。ほんのちょっとしか出ない役にめっちゃくちゃ有名なベテランさんとかをガンガンキャスティングされた作品なんですよ。
楽しかった~(笑)

一同笑

いつもオンエアーに出来るレベルにするのに四苦八苦するのが、天才の声優さんたちばかりのところでやったら、何も言わなくても分かってくれる。
一発目のリハから「は~いそれで~す」って。
元々演出家だから楽しくなっちゃって、もっとこうして欲しい、ああして欲しいとか監督が気心知れた人だったんで、「監督このシーンこうした方が面白いんじゃない?」って言ったら「今の芝居いただき」とかがあって、声優さんに「今の芝居はありなんだけど、もっとこういうのってアリかな?」って言ったら声優さんが応えてくれてもっと良くなっていくって、現場でダメ出しして楽しいって。
新人さんが多いと、どうにかOKにしないといけないって苦しんでのOKが多いのが、『欲』だけで演出出来るってめちゃくちゃ楽しかったですね。

インタビュアー:
そういう現場もあるんですね。

ハマノカズゾウ氏:
今売れている声優さんたちは、本当に技術もだし、人間性も演技のレベルも段違いに高いです。
売れているだけの『理由』があるっていう。なので、そういう人たちと一緒に仕事をするととんでもなく面白いものが沢山見えてくる。
これが『プロ』なんだ、これがお金を沢山貰う人たちの凄さなんだというのを感じましたね。
だから2年前の軒轅剣が一番楽しかった(笑)

 

現場、養成所、大学での考え方の違い

インタビュアー:
ハマノさんは先程からお話が出ている、音響監督、養成所での講師と更に名古屋芸術大学の准教授も務めていらっしゃいますが、同じ、演出をする、教えるという立場で考え方の違い、教え方の違いはありますか?

ハマノカズゾウ氏:
音響監督に関しては、答えは『お客さん』

インタビュアー:
お客さん?

ハマノカズゾウ氏:
要はオンエアーで観てくれるファンとか楽しんでくれる方、そういう方たちが楽しんでくれるって事を一番に考えているので、方向性としては、『視聴者』しかない。

養成所は成長させる。成長させて現場で使える子にするのが一番大事なので、どう指導して教えたら現場で通用するスキルを持つ役者になるのかを一番に考えてやっています。
なので、外の視聴者の皆さんとかそういうものよりも、『この役者が』ってことで考えているので、『養成所は個人』ですね。

大学は学生なのでいろんな選択があるわけです。僕は大学の講師に関しては声優の厳しさと声優の面白さを伝えることによって、本当に自分が『人生の中でそれに進みたい職業なのか』、人生をそれに賭けていいのかどうかっていうことを考える事も大事だと思うので、やはりそこに重点を置いていますね。
なので三つで変えているのはそこですかね。

インタビュアー:
全く答えが違いますね。
大学では声優の楽しさと『厳しさ』も教えていらっしゃるんですね。

ハマノカズゾウ氏:
どちらかというと、楽しさを教えています。
楽しい!やっぱりやりたい!そのための覚悟をつけられるかっていう。
養成所では完全に切っていく訳ですから、要はこの業界で使えるか使えないっていうのを、完全にザクザクふるいにかけていくのが養成所なので、雰囲気、匂いは違いますね。

 

声優・音響監督を目指している方へ向けてのアドバイス

インタビュアー:
声優を目指している方に何かアドバイスがあればお願いします。

ハマノカズゾウ氏:
声優っていう職業が今、若干アイドル化してきていたり人気商売になってきちゃっているので、どうしてもお芝居よりも見た目が可愛い子とか、タレント性がとてもある子とかそういう子たちがとても増えてきているんですね。
でもやっぱり声優という職業は最終的には、表現者であり役者である職業なので、やはり僕は、演じることが大好きで、演じることが幸せで、演じることが自分の一番の表現・パフォーマンスだって思う人が声優を目指して欲しいなとは思います。

なので、絶対芸能の世界って難しい事もいっぱいあるし、苦しいこともあるし、上手くいかないことの方が多いんだけれども、それでも演じているだけで幸せ・演じていることが自分の生きる意味だと思えるぐらい、お芝居が好き・表現が好きという人たちが進んでくれるとどんな苦境にも立ち向かって乗り越えると思うので、そういった人たちがいっぱい来てくれることを望んでいます。

音響監督を目指す方へのメッセージ

インタビュアー:
音響監督を目指している方にもアドバイスをお願いします。

ハマノカズゾウ氏:
音響監督を目指している人に言えることは、『監督になる方法がほぼ無い』。

インタビュアー:
無いんですか?!

ハマノカズゾウ氏:
今現在なれる順当な道が、声優さんとして有名になって、声優さんの中でも超ベテランさんになって声優として地位を作った人たちなんですよ。
音響監督になるには『声優として売れる!』。でも声優になることが難しいじゃないですか?正直このルートは基本無理なんですよ。

そうするともう一つのルートしかないですよね。そうしたら『音響制作・ミキサー』をやっていくことになるんです。
でも、音響制作・ミキサーを、いずれ音響監督になりたいからってなる人は居ないんですよ。
やっぱりミキサーさんたちも音を愛していて、そういう音楽を編集するのが好きだっていう人がいても、「これは下積みだ!」「音響監督になるんだ」っていう人はいないんじゃないかな。

音響監督って何かやってきた先の仕事で、音響監督になるために目指す仕事ではないんだよなって。
じゃああんた何でやってるの?ってことだけど、僕は舞台が大好きで、舞台の演出家としてやっていたのに、誘われて何故か行っちまったっていうだけで、僕が何もない中で音響監督をやりたいっすって言ってなれたかと言うと、僕はずっと舞台をやって作品を作って演出をずっとやってきたから音響監督をやらせてもらえたという。

音響監督をやりたいと言う人は、とにかく何かで形を作って、何かで認められない限り音響監督になるのは難しい。

なので僕は、音響監督って仕事を自分がやってこんなこと言うとめっちゃ偉そうに聞こえてしまうんですけど、F1ドライバー、宇宙飛行士のなりにくい職業シリーズに入れても良いんじゃない?ってくらい、音響監督になることは奇跡だと思っています。
もしもう一度、1から始めて音響監督になれますかって言ったら、無理ですもん。
人との縁、出会いで僕は音響監督になれたので、「音響監督になりたい!」ってなった人間じゃないから、気が付いたら音響監督になっていたというタイプなので。

僕はもう一人、音響監督で『平光琢也さん(※)』という師匠がいるんですけど、音響監督になりたての頃に三ツ矢さんから紹介していただいてその時に言われたのが、「ハマノ君、音響監督にやりたいの?」って聞かれたので、「舞台をやりたいので、(音響監督を)やりたいかどうかで言われたら、そうでもないです。」って(笑)

※平光琢也 俳優、脚本・演出家、音響監督
ミュージカル・美少女戦士セーラームーンシリーズの演出や、テレビアニメ「テニスの王子様」の音響監督を務める。

インタビュアー:
ハッキリと(笑)

ハマノカズゾウ氏:
平光さんに「だったら辞めとけ」って。「気を使って大変だぞ」って。

インタビュアー:
先ほどからお話を伺っていると、監督の意図を読めなければいけない、線画でイメージが出来なくてはいけない、更に声優さんには翻訳(演出)を出来なければいけない。
ドラマCDの現場だと原作者の先生に気を遣えなければいけない。
凄いですよね!?

ハマノカズゾウ氏:
平光さんと会って2年経ったころに、言っていた理由が分かりました。
アフレコ現場では、色んな立場の人を仕切っていかなければいけない。始めて分かったのが、凄く大変だってこと。根性がないと無理ですね。

だから音響監督を志す人に言えることは、音響監督の勉強よりも色んな事を勉強して、いろんなものを吸収して何でも対応できる人間にならないと音響監督は出来ないと思います。
柔軟性と知識をつけないと、その上で音の技術と、あと演技の勉強をしていかなきゃいけない。

なので、何かでとにかく成功してから音響監督になる方が楽だけれども、何かで成功し音響監督をやるって言っても勉強しなきゃいけないことは沢山あるので、なのでまずは今なれるもので成功する。そして音響監督なりたければ独学で。
ちなみに音響監督って全員独学なんで!

インタビュアー:
そうなんですね?!

ハマノカズゾウ氏:
仕事場でその仕事をずっと見て助手に入ったりとか、でもそれ以外に音響監督って結局はそんなやり方を勉強してとかで来ないので、なので独自なんですよ。なので、僕は僕のやり方をしているし、他の音監は他の音監のやり方をしているんです。
だから勉強よりもやっぱり感性を磨いて『この人に作品の音を任せたい』と思われる人間になるのが一番いいかなと思います。
音響監督になるっていうのが一番難しい質問ですね。

 

番外編②

究極の二択編

インタビュアー:
音響監督の仕事として、オーディションに同席されたりすると思うのですが、ギリギリの究極の二択で、どちらを選びますか
①Aさんの声はキャラクターに合っているけど、演技が下手。
②Bさんの演技はキャラクターに合っている、でも声が合わない。

ハマノカズゾウ氏:
僕は声が合っている人を選びます。

インタビュアー:
演技が下手でもですか?

ハマノカズゾウ氏:
演技を上手くすれば良いんだもん。これは音響監督の指導力だと思う。
けど、声は変えられない。

インタビュアー:
今の言葉がグッと来ますね。感動しました。

ハマノカズゾウ氏:
声は天性なので変えられないけど、演技は上手くすればいい。
両方が良いけどね。声が良くて芝居が上手い人が良いけど、どちらかと言われると、僕はキャラクターが声に合っている人を選んで、収録時間はかかるけど良い物になるように時間をかける方が見ている人たちが喜ぶ作品になると思います。

なぜかと言うと、どんなに芝居が上手くても声が合ってないと見ている人たちは気持ちが悪いんです。
演技の上手い下手に答えは無いけど、キャラクターの声に関して合っている合っていないは直球なので、世の中の方たちは長けているんですよ。

だからその答えで基準は作れないかな

 


後編では思い入れのある作品、現場での考え方の違いなどをお伺いしていきました。
厳しい世界で20年以上携わってきているハマノ氏だからこその言葉に、プロフェッショナルを垣間見ることが出来ました。

最後の質問には、芝居を愛しているハマノさんらしいお言葉をいただけました。
芝居に興味を持った方、現在声優を目指している方に少しでも見ていただければと思います。

ハマノカズゾウさんの最新情報はTwitterをご確認ください。
https://twitter.com/kazuzo_h

 

【1万字越えロングインタビュー】音響監督 ハマノカズゾウ氏に伺った、音響監督とは【前編】